言語聴覚士の仕事~初めて患者と向き合って感じた遣り甲斐~

こんにちは!
言語聴覚士(ST)の喜志です。


今回は、
STが普段どのような仕事をしているのか
実際の事例を紹介してみたいと思います。


私が過去に経験した事例を元に
記事を書いておりますが、

個人情報保護のため、
できるだけ事実を変えずに
一部内容を修正しておりますので、
ご理解ください。

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〈初めて脳出血で倒れたFさん〉

Fさんは
70代専業主婦の女性です。

家事の最中に
突然激しい頭痛に襲われ、

夫に助けを求めている最中に
意識を失いました。

Fさんが気が付いた時には
既に病院で入院しており、

入院する事になった経緯や

いつから入院しているのか

はっきりとはわかりません。


私がFさんに初めてお会いしたのは、

入院されてから5日後の事でした。


病室を訪ねると、

Fさんはベッドに腰かけて
テレビを見ていました。

声をかけると
振り返って笑顔で挨拶してくれました。

「ことばのリハビリを担当致します
喜志と申します。
よろしくお願いします!」

やや緊張した面持ちで
自己紹介した私に、

Fさんが発したことばは、

「何が言ってるのかさっぱりわかりません(笑)」


あれ?

"ことばのリハビリ"が
わかりにくかったのかな!?

もう一度、
何をするのか丁寧に説明します。

その間
Fさんも相づちを打ちながら
「はい、はい」と聴いておられました。

しかし、
Fさんの返事は

「さくのてんかをやるんですか?」
「あぁ、それじゃあ私もありませんけど…」


…話が噛み合わない…


これが
Fさんが患った言語障害

"失語症"

その症状を確認した瞬間でした。



〈失語症の正体を推理する日々〉

次の日、

Fさんに会いに行くまでに、

私はFさんの脳画像を見ました。

CT画像では、
左脳の言語理解の中枢部位に
見事に血腫が写っていました。

言語は、
理解と表出で大まかに
脳の中枢が分かれます。

Fさんは
理解障害が強く出現する
タイプの失語症でした。


もう1つ、
Fさんの話し方に注目しました。

スラスラと流暢に話すが、
日本語にない音や単語の誤りが多く、
何を言っているのか推測が必要。

これも特徴的でした。


流暢に話す失語症のタイプには
いくつかあり、
それぞれ原因が異なります。

原因が違えば、
適応する訓練も異なります。


Fさんの失語症の正体は
どのようなタイプなのか?

それを調べるために、
失語症検査を行いました。


言語を
「聴く」
「話す」
「読む」
「書く」
の4側面ごとに分け、

それぞれどのように誤るか
分析します。


3日かけて検査をとり終え、

誤反応を分析し、

私が導き出した結論は、

”中等度ウェルニッケ失語”

というものでした。


理解が重度に障害され、

発話は流暢たが内容が伴わず、

自分の言い誤りにも気付かない

という特徴をもつ失語症です。


この失語症であれば、

ことばのもつ意味や

音節を正確に"聞き取る"能力を

伸ばす必要があります。


Fさんが入院して9日目

私は絵カードを使って、

意味や音を聞き取る訓練を
Fさんと始めました。


〈Fさんとの毎日を振り返って感じる遣り甲斐〉

STは
毎日違う訓練を行うような事はしません。

薬と同様に

効果が見込めると思えた課題を
毎日コツコツ続けます

毎日同じことの繰り返しで
飽きがこないように工夫する事も

STの腕の見せ所です。

時折、
思い出話を語ってもらい、

何気ない雑談を挟みながら、

困っていることを打ち明けてもらいました。


そうして2週間ほど
Fさんとの言語訓練が続きました。

Fさんの病状は安定し、

よりリハビリ環境の整った病院へ
転院されることになりました。

Fさんの話すことばには、
まだよくわからない部分もありましたが、

家族の話題で
私と雑談できるようになりました。


別れ際、

まだまだ良くなる可能性もあるので、
これからもリハビリを続けてください
と言う私に、

Fさんは一言

「どうもいろいろありがとうございました。
元気になって家に帰れるようにがんばります!」

と笑顔でおっしゃいました。


失語症は数年かけて改善する
と云われています。


私と別れた後も、
Fさんが自分の失語症と向き合う日々は続くのです。


それから数か月後

転院先の病院から、
Fさんが無事に自宅退院された事を知らされました。


駆け出しの自分は、

Fさんのことばを支援する”バトン”を

うまく次のステージへ渡すことができたのだろうか


数年たった今でも
答えはわかりません。


ただ、
Fさんが今も元気で生活されているなら、

僅かながらでも
その一助になれた事を

誇らしく思えます。


少なくとも、

あの時、あの瞬間、

Fさんにとって
ことばを支援できる専門家は、

私しかいなかったのですから…




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