言語聴覚士の仕事~真の意味で患者に寄り添うこととは?~

こんにちは!
言語聴覚士(ST)の喜志です。

今回は、
STが普段どのような仕事をしているのか

実際の事例を紹介してみたいと思います。

私が過去に経験した事例を元に
記事を書いておりますが、

個人情報保護のため、

できるだけ事実を変えずに
一部内容を修正しておりますので、

ご理解ください。

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〈脳梗塞で顔面が崩れたNさん〉

Nさんは
最近まで日本語教師をされていた
60代の女性です。

定年退職されたご主人と
二人暮らしですが、

ご友人も多く、

よく外出されていたそうです。


そんなNさんですが、

ある日
友達と外食中に気分が悪くなり、

家に帰ってからも
調子が悪かったそうです。


明日も調子が悪ければ病院に行こう


そう思っていた次の日、

Nさんは立てなくなっていました。


たまたま実家におられた娘さん曰く、

"顔が崩れていた"そうです。


救急車を呼ぼうと言う家族に対し、

Nさんは
「意識はあるから、自分で病院に行ける」
と仰ったそうです。

結局、
病院に予約を取ろうと電話をかけたら、

「すぐに救急車で来なさい」

と一括されたそうですが。



脳梗塞は
必ず意識を失うものではありませんが、

油断は禁物です。


脳の神経細胞は虚血に弱く、

血液の供給が途絶えると、
10秒で壊死していきます。


一度死んだ神経細胞は
再生しません。


10秒ごとに後遺症が重くなります。


救急病院に入院した時点で

Nさんの身体は

左腕と左足がほぼ動かず、

顔面の左半分も麻痺して
涎を垂れ流す状態だったそうです。



〈早期にリハビリを始めるも顔面のリハビリはセルフ〉

リハビリは

可能な限り早くに始めた方が

回復しやすいと云われています。


Nさんは
病状が早くに安定したので、

入院して3日後には
理学療法を始めたようです。


その甲斐あってか、

回復期リハビリテーション病棟に
入院された時には

平行棒を使って
少し歩けるぐらいまでに
回復していました。


しかし、救急病院では
言語聴覚療法は実施されなかったようです。


STはどの病院にも
配置されている訳ではありません。

必要な患者に
必ずSTが関われている訳ではありません。


Nさんの場合も、

鏡を見ながら自分で
顔面のリハビリをするしか
なかったそうです。

回復期リハビリテーション病棟に
入院されたタイミングで、

初めてSTが関わりました。



〈日常生活には問題なくても満足出来ない〉

Nさんの顔面の麻痺は
自主練習の効果があったためか、

かなり動くようになっていました。

顔面神経麻痺の治療方法には
諸説ありますが、

こちらの記事でも書いたように

場合によっては
悪化しかねません。


まず私がした事は、

顔面神経麻痺の
正確な知識を提供し、

自主練習の方法を
Nさんと一緒に考えました。


Nさんは毎朝鏡を見る習慣があったので、

鏡を見ながら顔面の伸長マッサージと

適度な運動を行うようにしました。


幸い、
Nさんには麻痺に伴う呂律困難

"運動障害性構音障害"は
ほとんど認めませんでした。


1ヶ月程度のリハビリで、

STはもう必要ないと
チーム内でも判断されるようになりました。

あとは、
屋内・屋外の動作を確立できれば、

自宅退院出来る…


病院側はそのようなスタンスでしたが、

NさんはSTのリハビリが
終了される事に
難色を示しました。


「まだ顔の左半分は痺れてる。
鏡を見るたびに、
微妙に傾いた顔が嫌になる。」

「これはもう治らないんでしょうか?」


そのような事を毎回訊かれました。


顔面神経麻痺は長い経過をかけて
変化すると云われています。

簡単にまとめてしまえば、

表情は毎日動かしているので、
自然と慣れていくので気にならなくなる。

という考えが一般的です。


病院はどうしても
家に帰す事が最優先課題となるので、

顔面神経麻痺のような
生活動作に支障ないような障害は
疎かにされがちです。

ましてや
Nさんは構音に問題はない。

「病院のリハビリでSTはもう必要ない。」

という空気が
チーム内で漂いました。


しかし、

退院のための問題点と

Nさん自身が抱える問題点は

同じではありません。


Nさんは
少しでも顔面神経麻痺が良くなる
可能性が欲しかったのでしょう。


<患者に寄り添えるセラピストになるために>

私達
リハビリの提供者は、

機能訓練の専門家であると同時に、

患者の生活を支援するセラピストです。


「機能ばかり診て、
患者さん自身をみないSTは
セラピストじゃない。」

上司にそう教えられました。


私は
Nさんのリハビリを終了せず、

週2~3回の頻度で、
Nさんと顔面神経麻痺について話し合いました。


私には、
Nさんの顔面神経麻痺をすぐに治す
”神の手”はありません。

「必ず治ります」
などという無責任なことも言えません。


専門家という立場から、
Nさんが自身の障害と向き合う手助けをする。

極端な話、できるのはこれだけです。


Nさんはその後も
自主訓練に一生懸命取り組まれ、

退院後も、
自宅で自主訓練を続けてくれたようです。


退院されてから半年ほどして、

外来に定期受診で来られたNさんに再開しました。

小綺麗に身なりを整えておられ、

杖歩行ではあるものの

病院着の似合わない健康そうな
いで立ちでした。

「まだちょっと顔はしびれてますけど、
ちょっとずつ外にも出て、
また友達とご飯食べに行くようになりましたよ!」

そう言って御礼を言ってくれるNさんと、

久しぶりに他愛ない話ができました。



おそらく、

STのリハビリに
万人向けの模範解答はありません。

自分のリハビリが
患者さんにとって良かったのかどうなのか…

その答えは、

自分の手を離れた後の患者さんが
どのように生活されているか、

それを教えてもらうしかないと思います。



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