言語聴覚士の仕事~患者相手だからこそ上から目線になってはいけない~
こんにちは!
言語聴覚士(ST)の喜志です。
今回は、 STが普段どのような仕事をしているのか
実際の事例を紹介してみたいと思います。
私が私が過去に臨床で失敗した経験談です。
事例を元に記事を書いておりますが、
個人情報保護のため、
できるだけ事実を変えずに
一部内容を修正しておりますので、
ご理解ください。
〈自分の障害を軽んじていたMさん〉
Mさんは40代の女性です。
日ごろの喫煙・飲酒の影響か、
慢性的な高血圧でした。
数年前に医者から高血圧を指摘されるも
加療せずに放置していたそうです。
ある日、
Mさんは脳出血で救急搬送されました。
出血量はかなり多く、
集中治療室では
ほぼ寝たきりであったらしく、
回復期リハビリテーション病棟に転院して
ようやくまともなリハビリを開始しました。
その時点で
Mさんには複数の後遺症がありました。
中等度の麻痺
軽度の失語症
左半分を見落とす半側空間無視
何より、
自分の障害に気付かない、
あるいは障害を非現実的なまでに軽んじる
"病識欠如"
これが一番厄介でした。
最初にお会いした時、
Mさんは自分にリハビリが必要とは
全く考えていませんでした。
「私全部できるから」
「明後日には家帰るから」
そう言っていましたが、
実際には自分で
トイレに行くことも出来ませんでした。
当然ですが、
そんな状態では退院許可は出ません。
それが不服だったのか、
最初のうち
Mさんはよく不機嫌でした。
〈本人は困っていない生活上の問題点〉
Mさんのリハビリは、
まず障害の存在をきちんと
認識する事から始めました。
しかし、
どうにも本人はやる気になって
くれませんでした。
「今日は疲れたからリハビリやめ」
と言って訓練してくれなかった日もあります。
一週間経っても
一向にリハビリは進みませんでした。
病識欠如のリハビリは、
まず患者自身に障害の存在を
認識してもらう事から始めます。
私は
Nさんが「できる」と言った作業を
実際にやってもらい、
失敗した事に気付いてもらうように
促しました。
それに対するMさんの反応は
「家に帰ったらできるよ」
等といったものがほとんどで、
本当に現実味がないと思えました。
このままでは、
自宅退院できないのではないか!?
そんな心配がよぎり、
なんとか障害の重さを認識してもらおうと躍起になりました。
〈もっとできる事を教えてほしかった〉
ある日、
私は上司に呼び出されました。
Mさんが
私のリハビリをもう受けたくないと言っている
とのことでした。
Mさんが看護師に訴え、
病棟内で問題になり、
私の上司の耳に入ったようです。
私にとっては、
まさに寝耳に水。
まさか、
自分がMさんにそうのように思われていたとは
夢にも思っていませんでした。
Mさんは
「いつもできない事ばかり言われて気分が悪い」
「もっと、自分にできる事を教えてほしかったのに」
とおっしゃっていたそうです。
私は、
ただMさんに障害の重さを認識し、
現実に向き合って欲しかったのですが、
偉そうに説教してくるやつだ
という印象を与えてしまっていました。
困惑する私に、上司は
「患者の障害に目を向けるあまり、
Mさんの感情をおろそかにしていなかったか?」
と指摘しました。
確かに、
私はMさんのために失敗に気付くよう促していましたが、
それはMさんにとって気分の良い事ではありませんでした。
そして、
私はMさんがそのように感じる事に
何のフォローもしていなかったのです。
どこかで、
”自分が患者を正しく指導してやる”
という驕りがあったのではないか?
それを反省しながらも
初めて担当患者に拒絶されたことに
ただただショックを感じていました。
Mさんはその後、
私の担当から外れ、
明るく元気な後輩STに引き継がれました。
新しい担当者とNさんの関係は良好であったらしく、
Mさんは3か月程のリハビリの後、
当初の目標通り、
自宅に退院されました。
Mさんとの関係づくりに失敗した経験は
私にとって、
相手は感情を持った”人”である
という当たり前の事実を
再認識させました。
〈人が人を評価する怖さ〉
私は今まで、
複数の先輩方に師事してきました。
その方々は皆口を揃えて
「苦い経験はいくらでもある」
と仰います。
初めから何でも
完璧にこなせる人間はいません。
私にも
失敗経験がいくつもあります。
むしろ、
うまくいったと思えたケースの方が
少ないです。
こちらの記事でまとめたように
臨床で求められるSTの役割について、
私はMさんとの経験から学びました。
後続のSTにも伝えながら、
その都度自分に言い聞かせています。
医療者は色んな点で
患者より立場的優位にあります。
しかし、
医療者も人です。
患者も人です。
本質的には
人と人のやり取りです。
それを忘れてはいけないと思います。
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